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弥生時代中期、北部九州から瀬戸内海を経由した瀬戸内海運ルートが、列島内外の物資や大陸の文物を運ぶ重要な手段でした。さらには淀川水系〜びわ湖を通した水運ルートは、それらの物資、文物を畿内〜東海地方〜北陸に運ぶ重要な運送手段でした。
中期末には大きな社会変革があり、日本海沿岸を経由した日本海ルートが脚光を浴びます。
日本海側に着いた物資はびわ湖を通じて、各地に運ばれ、ますますびわ湖水運が重要性を増してきました。日本海ルートと瀬戸内ルートを結び、大和、東海、北陸、山陰を結ぶ結節点となったのがびわ湖水運でした。
詳しくは後述しますが、当時の船は丸木舟を増強した準構造船で、びわ湖湖岸にはこれらの舟の拠点がいくつもありました。それらは、湖上水運を中継する基地機能を果たしたり、川に沿って内陸部へ運ぶ河川水運への積替え基地として機能していたと考えられます。
下長遺跡はやや内陸部にあり、河川水運と陸路運輸の接続点として物資積み替えの機能を担っていたと考えられます。古墳時代には、後の東山道（後の中山道）となる陸路が扇状地末端部で形成されつつあり、南北方向の陸運も成立していたと言われています。
この観点から見ても、下長遺跡は古代東山道にすぐ近くに位置しており、陸路の接続点としても重要なポジションにありました。
このような水運の運営、陸運との接続管理は単独で行えるものではなく、それを統括管理する機能も必要です。この役割を担ったのが下長遺跡だったと考えています。それらの水運基地や拠点にはそこを管理する首長がいたはずで、その首長連合のまとめ役が下長遺跡の首長ではないでしょうか。

びわ湖水運のルート 　出典：下長遺跡パンフレット（守山市教委）

準構造船が見つかった遺跡

びわ湖岸のいくつかの遺跡から、当時の準構造船の一部が見つかっています。これらの場所に水運基地があったと思われます。
これまでに分かっている場所はびわ湖東岸だけですが、湖西にもそのような基地があったはずです。
さて、これらの水運基地の中で、どこが水運の統括をしていたのかということですが、それらの遺跡で見つかる遺構や遺物を鑑みて推定するしかありません。

【見つかる遺構】

下長遺跡では、他の遺跡では見つかっていない、首長の居館や大きな祭殿が出ています。このほか、倉庫と思われる掘立柱建物が多数見つかっています。
東近江市の斗西遺跡は、隣接する中沢遺跡と合わせると、約1000棟の竪穴住居、約300棟の掘立柱建物を有する、古墳時代の巨大な遺跡です。湖東地方の一大集落ですが、下長遺跡のような集落としての権威を示す大型建物は見つかっていません。

【見つかる遺物】

古墳時代の首長の権威を示すひとつに、卑弥呼政権やヤマト王権より配布された威儀具があります。古墳に副葬された鏡、玉、金銅製品が著名ですが、木製威儀具も重要なアイテムです。卑弥呼政権やヤマト王権は大陸よりこれらの威儀具を入手し、中国の権威を後ろ盾にしつつ連合体の首長に配布していました。
配布される威儀具の種類や形状・文様、数がその首長の権威の位置づけを示していると考えて間違いないでしょう。
この観点から見てみると、下長遺跡からは、儀仗、団扇状木製品、刀の装飾柄頭が見つかっています。しかも、それらに施された装飾や文様は、非常に格式高い権威のあるものです。
また、ヤマト王権の葬送儀礼として広まったと考えられるやまと琴も出土しています。
団扇状木製品は、準構造船が出土した西遺跡、松原内湖遺跡でも見つかっており、これらの遺跡は卑弥呼政権とつながりを持っていたことが分かります。
出土する木製威儀具の種類や質（装飾・文様・作り）から判断すると、下長遺跡は集落としての格付けも高く、卑弥呼政権と非常に密な関係を有していてびわ湖水運の統括者として重宝された集落だったと考えられます。

【水運拠点のイメージ図】

下長遺跡のどこに港湾設備があったのか、遺構からは判っていません。
集落の威厳を示すために祭殿が見える場所に船溜まりや船荷の積み下ろしの設備を設けていたと考えられます。 また、旧河道跡の地形も考慮すると入江になった場所は、舟を係留するのに都合が良かったと思われます。
このような点を考えて下長遺跡の港湾部のイメージを描いてみました。


港湾部イメージ図（画：中井純子氏））